事故物件に住んだ話(二)

出張から新居に戻って、僕が最初に目にしたのは、満杯であふれそうな郵便受でした。

 

1週間留守にしたとはいえ、引越したばかりの住所に、僕宛ての郵便物がこんなに来るはずはないですね。とりあえず全部の郵便物を引っ張り出し、エレベーターを待つ間、確認すると・・・宛先の住所は全て同じ。僕の新居の住所。部屋番も同じ。僕の部屋。でも宛名の名前が違うのです。

部屋に戻って並べると、宛名は全部で5人分。前の住人は偽名を駆使する怪しい人物か、それとも多人数で共同生活をしていたか・・・。そんなワケないですよね。ということは、おそらく短期間で次々に住人が入れ替わったに違いない。これはなかなかヤバいところに来ちゃったかも?!というのが正直な感覚でした。ただ、この時点で部屋の中には何の気配も無し・・・。

まだ調理器具などの生活道具を買い揃えていなかった僕は、とりあえず近所の商店街の探索に出かけ、飲食店を見つけて夕食をとり・・・部屋に戻ると・・・。おぉ。 いらっしゃいました。

 

リビングの真ん中に、とても身なりのよい上品な老婦人・・・お婆さんがぽつんと立っています。目はうつろ、目線は窓の外を向いていますが焦点はどこにもあっていない。僕でも一目でわかる、ものすごく高価そうな着物をお召しになっています。ただ、このお婆さん全くの無反応。呼びかけにも、僕が、いつも試す霊的なご挨拶にも全く応答なし。しかたがないので、お婆さんがそこに立っているすぐ横で、僕はテレビを見て過ごし、夜半には寝室に行って寝て、朝起きたら、お婆さんは消えていました。でも、僕がひっかかったのは、この部屋が事故物件だったとして、亡くなったのが、夕べのお婆さんなの?という疑問です。自ら命を絶つようには見えない。とすれば、この部屋で病気か何かで急死されたか・・・でも何かがおかしいのです。

 

そして、その日、仕事を終えて帰宅した僕を待っていたのは、全くの別人。今度は作業服姿のおっちゃんでした。