事故物件に住んだ話(三)

作業服のおっちゃん。昨日のお婆さん同様、リビングの真ん中に、玄関に背中を向けて立っていました。

 

前に回り込むと、僕は、そのあまりに痛々しい姿に、思わず声を上げました。顔の右半分。頬のあたりから左足の膝にかけて斜め一直線に幅10cmほどもある焼けただれたような深い「溝」があったからです。本当のことはわかりませんが、相当に高い電圧で感電されたのではないかと思います。ただ、このおっちゃんも昨日のお婆さん同様、一言も発せず、僕のことは完全に無視。というか認識すらしてない感じ。そしてお婆さん同様、少なくとも僕が寝る時まではそこにいて、朝にはいなくなっていました。

超高級和服姿のおハイソお婆さんと、作業服姿の感電おっちゃん。何の関係もなさそうな2人が同じ場所に現れ、おなじようにふるまう・・・。僕は、子供の頃から、たくさんの霊達と接してきたつもりでしたが、こんなことは経験がない。

ただ、これに近いことが起こる場所は知っています。それは「墓地」。でもこの建物のある場所は古くからの商業地のはずで元墓地とは思えません。仮に、もしそうだったとしても僕の部屋にだけ霊が現れるのは変だし、現れる霊は墓地があった当時の服装・・・少なくとも昭和初期とか大正とかの服を着ているはずで、それにしては新しすぎる。当時の僕にはまったく意味不明でした。

とはいえ、その日もちゃんと会社に行き、仕事をして、帰ってくると・・・こんどは玄関のドアを開けたところに、いきなり超大きな犬が寝そべっていました。僕には動物の霊が見えることはめったにないので、これには驚きました。リビングからちょっと場所がズレましたが、でも、全く無反応なのはこの犬も同じです。

彼らはいったい何者?? この部屋はいったいどうなってるの???

 

それからも、毎日のように次々と違う霊が現れては消えます。1人だけでなく2人、3人が同時に現れることもあり、時には動物も現れる。僕が帰宅した時には既にリビングにいて、でも僕のことは完全無視。翌朝までにはいなくなる。その繰り返し。そして、僕が、ようやく、きっとこれが理由に違いない・・・と気付いたのは、お婆さんとの初遭遇から10日目のことでした。