事故物件に住んだ話(一)

突然ですが、実は僕、事故物件に住んだことがあります。

 

それはもうずいぶん前、僕が社会人になって間もない頃のことです。僕は、ちょっとした事情から、どうしてもその日のうちに引っ越し先を見つける必要に迫られていました。でも、ここに住もうと目ぼしを付けた町で、不動産屋を片端から回っても全然物件が見つからない。すっかり日も傾いた頃、途方に暮れた僕は、自分がその日最初に尋ねた不動産屋の前にいることに気づきました。藁をもつかむ気持ちで再度そこに飛び込んで事情を話すと、そこの社長が「うちの物件じゃないんだけど、わりといい部屋がある。隣町だけど見てみる?」と一言。断る理由はありません「お願いします」と即答しました。教えられた不動産屋に赴くと、老夫婦がすごい笑顔で大歓迎。さっそく鍵を借りて現地に行くと、管理を任されているという1階の住人のおばちゃんが、わざわざ玄関で待っていてくれて、これまた満面の笑みで大歓迎。で、いよいよ部屋へ・・・。ドアを開けた瞬間、僕は、「ここにします!」。一瞬で即決でした。

家具もカーテンもない真っ暗な空き部屋。そのドアを開けた僕の目に飛び込んできたのは、絶景の夜景だったのです。広い間取り、充実した設備。駅まで徒歩3分。途中にスーパーが2軒。すごい眺望と、それを見渡せる張り出し窓。最後の最後にこの物件に巡り合うとは何とラッキー! 僕は有頂天で不動産屋に戻り、再び老夫婦に歓待されながら契約を終え・・・引っ越し業者に住所を告げました。やれやれと一息ついた時。不動産屋の老主人が口を開きました。僕はその言葉を今でも覚えています。『せっかく住んでもらうので、長くいてくださいね。新しい生活を始める前には、ごはんとお茶を用意して御線香をあげると「いいことがあるらしいですよ」』。

 

かぁ~。なるほどぉ。「出る」んですね・・・。

言い終わると、老人は、それまでの笑顔満面とは全く違う、半ば申し訳なさそうな、半ばすがるような目でじっと僕を見ていました。で 僕はどうしたか? 僕は自分の言った言葉も覚えています。僕はこう言いました。「すごくいい部屋ですよね。何が起きても自分は大丈夫です。気にしませんし、多分『うまくやれる』と思います。」僕の言葉を聞いた老夫婦のうれしそうな顔といったら!!

 

でも・・・このお話。もうちょっと複雑な展開になります。

僕は、その翌朝には荷物を運び入れはしましたが、出張が決まっていたので、片づけもしないまま。そのまま1週間不在。そして帰宅した初めての我が家。そこでは想像もしていなかったことが次々に起こったのでした。